深澤直人 x 平野啓一郎 トークセッション photo
:さて、このINFOBAR 2ですけれども、私も手に取ってみて、この丸みが温かいなと感動しました。「飴が溶け出したかのような」という表現をされましたが、どういう思いでこのデザインをされたんですか。

深澤:大体こういう携帯電子情報機器というのは、進化する形というのがあるんですよね。電子部品というのは四角くできているんですよ。それを構成して作っていくと、やっぱり四角っぽいものになるんですね。
でも、時代がどんどん進むと、それがもっともっと細かくなって細胞化されていく。よりオーガニックに、人間に近い形になっていくんです。進化して人間の形に近寄ってきたということを表現するためにちょうどいいなと思ったのが、飴をなめていって四角い飴の角が取れていった感じだなと。
それと言うのはつまり、体の一部によって削り取られた形という、非常に自然に出来上がった形というものですよね。使い込んでいくと、例えばテーブルの隅がちょっと丸くなっていくのと似ていると思うんです。「人間によって丸くなった形」を実際には表現しているということで、それはより親しみやすくなったということの表現でもあるということですよね。

:平野さん、持たれてみて今回のデザインの印象はいかがですか。

平野:そうですね。やっぱりデザインものって、だいたい雑誌とか紙で見ていてステキだなと思っても、実物を見て「ん~・・・。」というものもあるんですけど、このINFOBAR 2は紙で見ている以上に持ち心地がいいというか。深澤さんのお仕事って、経年変化の中でモノの運命を見ていくということがあると思うんですよね。木の製品だったら、最初は角がカクカクで、使っていくうちに角が取れていくとか、飴玉だったら数秒ごとに溶けていくわけでしょう。ジーパンだったら、買ってきて、これぐらいのくたり具合のときが一番いいってのがあるじゃないですか。

深澤:ありますね(笑)。

平野:あるモノがあって、その終わりがあるときに「ここ」っていう、その感じがこのINFOBAR 2にはあるんですね。カクカクで人と交わるにはちょっと角がありすぎる状態から、もう無くなっちゃう状態の途中の中で、「あ、ここ」っていう感じなんです(笑)。

:ええ。持っていみると本当にその感覚が分かりますよね。

深澤:あんまり人間に近づきすぎた形、オーガニックになりすぎてしまうと、それも逆に拒否反応で、なんかこう気持ち悪いものになってしまいがちなんですよね。ですから、機械と人間のちょうど間にいるような、ちょうどインターフェースの中間にいるような感じっていうのが今回表現されたものだと思います。

平野:結構それってすごく絶妙で、言葉でもそうだと思うんですよね。例えば「コンプライアンス(Compliance)」ということを最近よくいわれますけど、あれって、言葉としてはまだ角が立っていて、なんとなくなじまないんですけれど、もうちょっとしたらもう少し角が取れてくると思うんですよね。それを過ぎるともう今度はつまんない言葉になっちゃう、普通になりすぎちゃうと思うんですよ。だから、その言葉が一番立つ瞬間ってあると思うんです。それを人工的に経年変化の時間をぎゅっと圧縮して、別に角が立ったところから始めなくていいじゃないかという感じがするんです。気持ちいいところからプロダクトとして、最初から始めようという感じがして、それがすごく面白いんですよね。

:携帯電話は手を使うものですよね。このペットボトルもコップもそうですけれど、手が感じる感触というのはものすごく敏感に感じるものだと思うんですが、形状とか丸みをより鋭く感じてしまうもので、だからこそ、デザインの面白さもあると思いますが。

深澤:そうですね。もちろん、携帯電話は電話をかける、話をする道具なんですけれど、それ以外にも、あんまり自覚していない無意識の状態で、例えば会議中に手いたずらしていたり、ポケットの中で触っていたりっていうことも実は重要なコミュニケーションで、すごく緊張しているときは動きが早くなったりして、その人が携帯電話とのまた違ったコミュニケーションで表現されているっていうこともあると思うんですよね。
だからそれというのは、機械が人間の生活の中にかなり溶け込んできている状態を表していると思うんです。僕も平野さんもそうなんですけれど、人間の無意識の状態でやってしまっているということにとても興味があって。そこにはめ込んだほうが、モノが素直に溶け込んでいくんじゃないかと考えたりするんです。

平野:それって、一つの発見でもあって。例えば、バスの整理券って、ヒュッと取って乗っている間になんかみんな折ってしまいますよね。

:折りますよね(笑)。

平野:別に誰に言われたわけでもないけど折ってしまうっていうのは、実は逆に、あの紙の絶妙な形とバスに乗っている数分という時間が、最終的に折るというところにストンと人間の行為を落とし込んでしまうんだと思うんですよ。そうすると、あの形とその時間というものに、また特別の意味が出てくると思うんですよね。
だから、人間がなんとなくやってしまうことを突き詰めていくと、そこに一つのフォルムが見えてくる。それが、深澤さんがよくプレゼンでする、パズルのワンピースをぽこっと外してみせたりするのと同じような考え方になるんじゃないかと思うんですけどね。


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